2003年2月10日月曜日

Le Monde : おいしいポートーフ(肉と野菜の鍋)




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2003.2.10

冬になるとやっぱり鍋物ですね。フランスでもそうみたい。特別上等のフランス伝統の鍋料理の紹介です。ポートーフは散人も大好き。でも人類で最初に鍋料理を食べたのは誰かご存じですか。実に我らが祖先縄文人なのです。視点「日本文化のルーツとグローバリゼーショ」(2000/1)をお読みくだされ。


A la bonne fortune du pot-au-feu (2003.2.9)

おいしいポートーフ(肉と野菜の鍋)

ポートーフ(肉と野菜の鍋)こそフランスの美食と渾然と混ざり合わさったものである。これは元伯爵で第三身分の代表であったミラボーが「ポートーフこそが帝国の基礎である」と恒久化して以来、シンボル的価値を持つものともなっている。

この名前は、単に、アンチョビーの切り身を十字架風に並べ、種を抜いたオリーブを添え、エストラゴンとアンチョビーを焼いた肉に添えるという「ミラボー風」の盛りつけとして残っているだけではない。

名前から分かるように、ポートーフとは昔の言葉でいう「鍋」の中で料理された料理のことでフュレティエールが1691年に言ったように「朝から鍋を火にかける」のである。あの時代から、焼き物のような乾いた料理と水気のある料理、スープ、シチュー、炒め物は区別されていたのである。「ポー」というのはゾラの時代までは、料理に使う道具の名前だった。

スープと焼き物の区別は純粋に人類学的なものなのか? いやそうではない。今日に至ってもなお、赤肉の好きな人たちやポートーフのようなスープと肉や野菜が一緒に煮込んだものを作る人たちの間でその二つは区別されているのである。

「ポー」という鍋は、最初の内は自在鈎で吊されていたが、そのうちカマドの際に置かれるようになった。

鍋の中に、まるで魔法の儀式のように、肉の塊や骨を入れて煮立て、グローブを差し込んだタマネギを加え、薬草の束も加えるのだ。

鍋の中で、肉と野菜は渾然と交わり、お互いの味を吸収する。タイムや月桂樹の香りも。ポートーフは薬草抜きでは考えられないのである。

いろいろの種類の肉が必要とされる。半分脂身が入ったバラ肉や、痩せたすじ肉やゼラチン質の部分、なかでも良いのはもも肉だが、外股肉ではなくすね肉の部分がいい。また肩の部分の脂肪が少ないところやパルロンと呼ばれる二対の肩肉の隣の部分が良い。頬肉や尻尾の部分や脾臓も肉汁の色づけのために入れても良いが、三時間ほど煮てからその部分は猫にやる。

EXTRACTION DES SAVEURS

味の抽出

肉は、冷水から煮立てるべきか水が煮立ってから肉を入れるべきか? これは実に奥の深い問題である。おいしい肉汁を出そうと思えば冷水から肉を煮立てるべきであるが、煮立てている内に味がしみ出してしまうので肉が水っぽくなってしまうリスクがある。この香りの理論に基づく現象をサヴァランはオズマゾーネ現象と呼んだ。反対に肉を水が煮立ってから入れると味が濃縮するので肉の風味が良くなるのである。

一部の家庭では、牛肉の固形スープを溶いて水に入れることで、肉は水が煮立ってから入れている。そうすると肉も味が良くなり、スープも浮いた脂を取り去ると素晴らしくしっかりしたものとなる。両者の妥協点を探る方法は、スネ肉などの味がしっかりした肉は冷水から煮立てて行き、最後は挽肉用として使い、二時間ほど経ってからもっと上等の肉を加え、その肉はそのまま食べるというやり方だ。

このやり方は、ご近所のおばさんがやっているやり方だが、もっと洗練されたやり方でやってくれるのが、パリで最近流行の伝統的なレストラン「キンシー」の豪快なオーナー料理人だ。

彼のやり方には信頼が置ける。冷水から肉を煮立てはじめ、ニンジン、カブ、ネギなどの野菜を加え泡立つまで煮立て、三分の二ほど煮てから野菜を取り出し、スープの脂を除き、肉を形良く整えて小さな野菜類と肉汁と共に膀胱の袋に入れて、袋を括って締めてからさらに一時間ほどゆっくりポーチにする。

この二回に分けて加熱するポートーフはすごい技術だが、膀胱入りポートーフと呼ばれている。サヴァランのオズマゾム現象で肉の味も素晴らしく濃縮されている。これはすごい料理である。

深皿の上で膀胱が開かれると、薫り高い肉汁が噴出し、次に肉と付け合わせの野菜が出てくる。完全なる香りの調和である。

昔の偉大な料理人ブーファンの狂気のようなポートーフの思い出が今日によみがえる。これこそもう長らくダイエットとか香油とか醤油なんかに気をとられて忘れられていたものである。

この料理にはいくつかの香辛料が必須である。脊髄の味付けのための粗塩、ピクルス、マスタード、それに西洋ワサビだ。肉を食べる前に、肉汁を完全に脂を取り除いてから、カップかスープ皿に入れて供する。もし肉汁が残ったら、後でバーミセリを入れて暖め直して食べればいい。肉が残ると冷肉を使ってとてもおいしいサラダを作ることが出来るし、トマトやズッキーニや茄子などに入れて詰め物にすればおいしいし、挽肉料理にも使える。これこそが、冬の日曜日に最適の、おばあちゃんの味、出来あわせの材料で作る素敵な料理(フォルチュン・ドゥ・ポ)なのである。

Jean-Claude Ribaut

・ ARTICLE PARU DANS L'EDITION DU 09.02.03

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